感性の限界を読みました。
人間の合理性や自由意思について、様々な立場の人がそれぞれの見解をぶつけ合うシンポジウム形式で進む本です。
非常に読みやすいです。サクッと読めるのですが、それぞれの学者たちの見解が面白くここから派生して別の本を買って読みたくなるような内容です。
人間の合理性の限界
人間が合理的にものごとを判断するだけではなく、直感と呼ばれる自律的システムと理性と呼ばれる分析的システムがそれぞれ機能した結果、時に不合理な選択をしてしまうことがあるようです。
プロスペクト理論で有名なダニエル・カーネマンは、これらを数値化することに成功しました。
人間は得をする場合は、リスクを回避し損をする場合にはリスクを選択するフレーミング効果など、ちゃんと考えるとまさかと思えるような選択が日常的に行われていることに驚きます。
このあたりは、ファスト&スローに詳しく書かれています。
ぼくが好きな本の一つです。
カーネマンは、不確実な状況における人間の意思決定が、「効用」ではなく「効用の変化」に基づき、損失回避を優先する傾向の強いことを示す「プロスペクト理論」を完成させて、2002年にノーベル経済学賞を受賞しました。
人間の意思決定に信じがたいほどの「不合理性」が潜んでいることを、実験的に明確に立証したからです。その原因となるのが、人間の持つさまざまな認知バイアスなのです。
「得をするフレームではリスクを避け、損をするフレームではリスクを冒そうとする」傾向があるとする「フレーミング効果」を発見しました。
自由意思の限界
人間は染色体、あるいはDNAを基としひとまとめにし設計図となった遺伝子で、細胞がコントールされてヒトという形になっているというのはご存知の方も多いでしょう。
ぼくもその程度の知識ですが、物事の捉え方によっては遺伝子を運ぶ乗り物たる細胞の集まりが、動物であるという事実を本書では突きつけます。
自律的システムでコントロールされているだけの乗り物である動物はたくさんいるということなのです。
でもヒトは分析的システムを持っています。
例えば、とある薬を飲むことや苦くて美味しい食べ物を食べるという行為は、本来は毒であり自律的システムからすると危険なものを分析的システムで安全に利用していると言えます。
そういった意味では、自律的システムの判断を超えて、分析的システムで物事を判断しDNAによる支配を超えていっているという見方もできます。
「苦味」は多くの毒性物質に含まれる味ですから、本来は遺伝的に動物が好む対象ではないということです。
現在地球上で、コーヒーやビールをはじめ、茶やワイン、魚介類の内臓やニガウリのような苦味物質を好んで飲食するのは、ヒトだけ
私たちはロボット-複製子の繁殖に利するように設計された乗り物-かもしれないが、自分たちが、複製子の利益とは異なる利益を持つことを発見した唯一のロボットでもある。
存在の限界
人間は死んでしまうと、その存在はどうなるのでしょう。
例えば、その子孫に残る遺伝子も5世代も辿れば32分の1になってしまいます。
ほとんど残っていないも同然です。
もちろん、その後も2の累乗だけ薄まっていくわけです。
どうやら遺伝子が残ったことで存在が残ると考えることは出来ないようです。
じゃあ、今ここにいる自分に目を向けてみると、体を動かしているのは自分です。
脳から発した命令が、手や足を動かします。
これは、当たり前のものとして考えられています。
では、「私」が動かすと命令したので手や足が動いたのか?どうやらこれは、違うらしいのです。
先に脳が動かしたあとで動かすという命令が発せられるようなのです。
無意識が体を動かしたあとで、「私」があたかも動かしたかのように錯覚させる仕組みまであるようです。
この事実を、2年ほど前に読んだ 「脳はなぜ「心」を作ったのか「私」の謎を解く受動意識仮説」で初めて知った時に、自分がどこにもないような感覚に襲われました。
本書では、なぜテロなどの不条理な行為が起こるのかという問いを通じて、それはコミュニティに迎合しようとする自律的システムが無意識にそうさせると論じます。しかし、無意識や意識とは、脳が作り出した幻想だという事実を知ると、その意識や無意識とは一体何なのかわからなくなってしまいます。
運転していると少年が視界に入り、その150ミリ秒後に足が条件反射的にブレーキを踏みます。
ここで重要なのは、ここまでの行動がすべて「無意識」」によるもので、あなたの「意識」は、まだ少年に気付いていない、何の行動命令も出していないということなのです。
ブレーキを踏んでから350ミリ秒経った後に、初めてあなたは少年を「意識」し、自分の足がブレーキを踏んでいたことに気付くのです。さらに興味深いのは、この時点で、あなたの「意識」が500ミリ秒をさかのぼり、「少年が飛び出してきた瞬間、慌ててブレーキを踏んだ」ように記憶を巧妙に書き換える点です。
さいごに
こういった本を読むといつも、人間とは何なのかという深い問いの入り口が見えてくる気がします。
もちろん答えは出せませんが、その限界をわかりやすく教えてくれる本書はオススメです。
本書に登場する、いくつかの本は読んだことがありましたが、他にも購入して読んでみようと思います。